
内科
一般内科では、日常生活の中で比較的遭遇しやすい急性症状や慢性疾患の継続的な治療とコントロールを行っています。また、専門的な高度医療が必要な場合は、専門の医療機関へご紹介し適切な治療を受けていただけるようにする役割も担っています。以下に内科でよく見られる症状を挙げています。複数の症状が出ていて「何科を受診したらよいかわからない」といった場合など、お悩みの際はお気軽にご相談ください。
このような症状と疾患の方はご相談ください
日常的に起こりやすい症状でも、適切な検査を行うことで重大な病気の早期発見につながることもよくあります。体調不良や健康に関して気になることがございましたら、何でもお気軽にご相談ください。
どうして血圧が高いと、いけないのでしょうか?
「血圧が高いといわれたから塩分控えないと…」という会話が挨拶替わりになるくらい、日本人には高血圧が身近な病気です。でも「高血圧のせいで、からだがつらくて困っている」という話は聞きません。自覚症状は問題にならないのに、なぜ血圧が高いといけないのでしょうか。それは血圧が高いほど、脳卒中の危険が高くなるからです。もちろん、高血圧の怖さは脳卒中だけではなく、脳以外にも多くの臓器・部位にさまざまなかたちで悪影響(=合併症)が現れます。高血圧を治療するのは、そうした合併症を未然に防ぐためです。
ここで、高血圧が起こる仕組みを解説しましょう。
血圧とは、血液が動脈を流れる際に血管の内側にかかる圧力のことです。よく、血圧の“上”とか“下”という言い方をしますが、上は心臓が収縮して血液を送り出したときの「収縮期血圧(最高血圧)」のことで、下は心臓が拡張したときの「拡張期血圧(最低血圧)」のことです。収縮期血圧が140㎜Hg以上、拡張期血圧が90㎜Hg以上のとき、高血圧と診断されます。
血圧は、心臓から押し出される血液の量(心しん拍はく出しゅつ量りょう)と、血管の太さ(正確には血管内径)・血管壁の弾力性によって決まります。血液の量が多ければ血管の壁には強い圧力がかかり、高血圧になります。また、末梢の血管がなにかしらの理由で収縮したり、または血管が硬く細くなると血圧が上がります。
高血圧の人の大部分は、血圧を上げる原因を特定できない「本態性高血圧」というタイプです。腎臓や神経系などの何らかの遺伝的な異常に、塩分の摂りすぎや過食などの生活習慣・環境の要因が加わって起こります。患者様の数は少ないのですが、血圧を高くする明らかな原因があって高血圧になっている場合もあり、「二次性高血圧」といいます。腎臓の病気や内分泌の病気などが該当します。二次性高血圧では多くの場合、その原因となっている病気を治療すると、血圧が下がります。
多少血圧が高くても、自覚症状がないのがふつうです。血圧がかなり高いときは、頭痛やめまい、肩こりなどが起きやすくなります。しかし、こういった症状は血圧とは関係なしによく現れるものですから、高血圧は自覚症状があてにならない病気といえます。だからこそ症状があるなしに関わらず、検査・治療を受ける必要があるのです。
高血圧状態では、血管の壁につねに強い圧力がかかっています。血管壁はその圧力に対応して、次第に厚く硬く変化し、動脈硬化が進行しやすくなります。その結果、血管の弾力性が失われて、血管内部はますます狭くなり、血圧がさらに上昇する悪循環に陥ることがあります。この悪循環が続くと、やがて「合併症」が起こることもあります。
高血圧の影響はまず、血管壁が弱い細い血管に現れ、細い血管が多い臓器ほど早く障害されます。具体的には、脳や眼(網膜)、腎臓などです。さらに、高血圧が長期間続き、太い血管の障害が起きると、脳卒中や心臓病、あるいは動脈瘤破裂という、生命を脅かしたり身体に障害を残すような、重い病気が起こってしまうことがあります。一般に合併症は一度起きてしまうと治すのが難しく、病気の進行を抑えることで、治療は精一杯になってしまいます。ですから高血圧は、合併症が起きる前に治療を始めることが大切なのです。
脳 | 脳の血管が詰まる脳梗塞と、血管が破れる脳出血があります。発作時は麻痺や舌のもつれ、めまい、嘔吐、意識障害などが起きます。 |
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眼(網膜) | 眼底出血などが起こり、視力が低下することもあります。 |
心臓 | 冠状動脈の動脈硬化による狭心症や心筋梗塞、高血圧に対応し心臓がオーバーワークを続けた結果生じる心肥大(心臓の壁が厚くなった状態)、それらによる心不全などが起きます。 |
腎臓 | 尿にタンパクや赤血球が出たり、むくみなどが現れます。腎機能低下が進行すると、人工透析を受けないと生命を維持できなくなります。 |
★脳卒中の症状や心筋梗塞と思われる激しい胸痛発作が現れたら、直ちに救急受診することです。
症状が現れずにからだを蝕む“静かな殺し屋”高血圧。その治療には、検査を受けて血圧がどのレベルにあるのか、合併症の気配はみられないか、つねにチェックしておく必要があります。検査の基本は血圧測定です。血圧は時々刻々と変化していますから、現在では診察室よりも、同じ時間帯に同じ状態で測定される家庭血圧が、合併症を予防する上で重視されています。
通常、家庭血圧のほうが診察室血圧より安定しています。なお、病院で測ると家庭での測定値よりもかなり高くなる人がいます。これは「白衣高血圧」といって、医師や看護師に囲まれることの緊張によるものです。病院では血圧以外に、眼底検査で血管の状態を確認したり、心電図検査、胸部レントゲン検査、血液や尿の検査で高血圧の原因や合併症を調べます。
血圧をどの程度にコントロールするかは、医師が患者様の年齢や合併症の有無などを総合的に判断して決めます。一般的な目安は収縮期血圧と拡張期血圧がそれぞれ140/90㎜Hg未満ですが、後期高齢者では150/90㎜Hg未満とやや高めに設定したり、糖尿病や進行した腎臓病の患者様では130/80㎜Hg未満と低めに設定することがあります。
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
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75歳以下の 患者 |
130/80未満 | 125/75未満 |
後期高齢者 患者 |
140/90未満 (忍容性があれば130/80未満) |
135/85未満(目安) (忍容性があれば125/75未満) |
糖尿病患者 | 130/80未満 | 125/75未満 |
CKD患者(蛋白尿陽性) | 130/80未満 | 125/75未満(目安) |
脳血管障害患者 | ||
冠動脈疾患患者 | 130/80未満 | 135/75未満(目安) |
〔日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』より〕
高血圧の治療では、まず生活習慣を見直すことから始めます。そうしないと治療効果が上がらないばかりか、高血圧以外の生活習慣病や合併症が進行してしまうからです。高血圧治療の目的はあくまで合併症を防ぐことで、血圧を下げるのはその手段に過ぎません。塩分の多い食生活や肥りすぎを放置し、薬で血圧だけ下げたとしても、治療の意味は半減してしまいます。
一番のポイントはやはり減塩です。塩分は水分を引きつける作用があり、そのため血液量を増やしますし、同時に血管を収縮させ血圧を上げます。急に厳しい減塩に取り組むと続かなくなりますから、無理のない程度の減塩から始めましょう。1日1gの減塩で収縮期血圧が約1㎜Hg低下することが報告されています。外食時にどのお店も味付けが濃いと感じるようになったら、塩分控えめの食生活が定着してきたといえます
食塩1日6g未満を目標に!
運動は、血管を広げて血行をよくし血圧を下げます。また、減量やストレス解消にもよく、高血圧の治療には欠かせません。ただし、急に激しいスポーツを始めるのではなく、ウォーキング(早歩き)などの毎日気軽にできる運動から始めましょう。1分間の脈拍が100〜120(10秒で約20)になる程度の運動を、1回1時間なら1日おき、1回30分なら週に5〜6日行うと良いでしょう。
精神的ストレスは、血管を収縮して血圧を上げます。かといってストレスをすべて排除することなど不可能ですから、趣味や社会活動などの気分転換になる時間を作ってみましょう。また、疲れた心を休めるため、睡眠は十分とりましょう。寝不足は高血圧の原因の一つです。
アルコールは少量なら血圧を少し下げますが、飲みすぎると血圧が上がり心臓の負担も増えます。目安として、1日に日本酒で1合、ビールなら中ビン1本までがよいといわれています。喫煙は血管を収縮させたり血管壁を傷つけ、動脈硬化の進行を早めるので、合併症の危険がより高くなります。
服用生活習慣を見直し、是正しても十分に血圧が下がらない場合は、降圧薬が処方されます。降圧薬にはいくつかの種類があり、病状に応じて処方されます。それぞれに服用の注意点、現れやすい副作用などがありますから、医師や薬剤師の説明をよく聞いて、正しく飲み続けましょう。なお、「薬を飲み始めると一生飲まなければいけないからまだ飲みたくない」という方がいますが、これは本末転倒な言い方です。なぜなら「薬を飲まずにいれば高血圧が治る」わけではないからです。高血圧は、自覚症状がなくても合併症が起こることがあり、その合併症を起こさないために薬を飲むのです。ただし、人によっては薬を減らせたり、服用を一時中止できることもあります。
なにより治療を続けることが大切です。
薬物治療を始めるときは、数か月かけて少しずつ血圧を下げていきます。急に血圧を下げると、活力がなくなり生活の張りが失われたり、脳梗塞の危険がやや高くなるからです。このため最初のうちは、作用が弱めの薬が少なめに処方され、全身の状態をみながら薬の量や種類が調節されます。「きちんと薬を飲んでいるのに血圧が下がらない」といって通院をやめたり病院を変えたりすると、薬の効果を十分に得られません。
薬は指示どおりの服用を心掛けてください。例えば家庭血圧の結果から自己判断で飲んだり飲まなかったりするのは、血圧コントロールを乱し危険です(はね返り現象により血圧が急に高くなることがあります)。薬の飲み方については、必ず主治医に相談してその指示に従ってください。なお、薬を飲んだあとにめまい・ふらつきなどの異常を感じたり、発ほっしん疹・かゆみなどが現れたら、どんなことでも構わないので、主治医に伝えてください。
治療を続けていて血圧が安定してくると、気がゆるみがちなもの。でも安心しきってはいけません。一度高血圧になった人は、もともと血圧が高くなりやすい体質ですから、しばらく薬を中止していると、再び高くなることが多いからです。たとえ今、薬を飲まずに血圧をコントロールできているとしても、血圧の変化を見逃さず合併症を予防・管理するために、定期的な通院を欠かさないようにしましょう。高血圧高血圧はありふれた病気です。高血圧が見つかったら、一病息災のつもりで気長に自己管理を続けていってください。合併症さえなければ、健康な人とあまり変わらない生活を送ることができるのですから。
脂質異常症(高脂血症)は、血液中の脂肪分が増えすぎて、血液がドロドロになっている状態です。少しずつ血の巡りが悪くなり、やがて動脈硬化をおこし、心筋梗塞や脳梗塞などの恐ろしい病気をひきおこします。以前の日本では、脂質異常症(高脂血症)はそれほど多くありませんでした。ところが食生活の欧米化と歩調をあわせるように患者数が増えつづけています。
脂質異常症は以前、高脂血症と呼ばれていました。
細胞膜やホルモンの材料となる脂肪分で、おもに肝臓で作られています。大きく分けて、LDLコレステロールとHLDコレステロールの二つがあり、LDLコレステロールは血液の流れに乗って、肝臓から全身にコレステロールを送りとどけます。HLDコレステロールはその反対に、余計なコレステロールを肝臓にもちかえる働きがあります。LDLコレステロールは、血管壁にコレステロールを付着させ、動脈硬化を促すので悪玉コレステロールと呼ばれ、一方のHDLコレステロールは善玉と呼ばれています。
エネルギー源として使われる脂肪分です。からだの主要なエネルギー源は糖分と脂肪分ですが、エネルギー(カロリー)が多すぎるときは、糖分が脂肪にかえられ、余った脂肪分といっしょに中性脂肪として肝臓から血液中に放出され、脂肪組織に蓄積します。
LDLコレステロール(LDL-C) | 120〜139 | 境界域高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
140以上 | 高LDLコレステロール血症 | |
HDLコレステロール(HDL-C) | 40未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド(中性脂肪・TG) | 150以上 | 高トリグリセライド血症 |
Non-HDLコレステロール | 150〜169 | 境界域高Non-HDLコレステロール血症 |
170以上 | 高Non-HDLコレステロール血症 |
(Non-HDL-Cは[総コレステロール値-HDLコレステロール]で計算します)
脂質異常症は下の左表のような基準で診断され、血液中のどの脂肪分が多いかで「高LDLコレステロール血症」と「高トリグリセライド(中性脂肪)血症」などにタイプ分類されています。なお、脂質異常症は以前「高脂血症」と呼ばれていました。しかし善玉のHDLコレステロールは数値が低いほど悪いので、今では「脂質異常症」と呼んでいます。いずれのタイプも動脈硬化を促進しますが、より問題なのは悪玉のLDLコレステロールが高い場合です。ただ、実際はLDLコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)の両方とも高い患者様が多く、その場合はさらに動脈硬化が早く進みます。また、高トリグリセライド血症は動脈硬化ばかりでなく、糖尿病患者様におこる細い血管の障害(目の網膜や腎臓の病気など)の進行を速めます。
治療方針の原則
管理区分¹ 脂質管理目標値(mg/dL)LDL-C Non-HDL-C TG HDL-C一次予防(冠動脈疾患にならないための治療)まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する二次予防(冠動脈疾低リスク160未満中リスク140未満190未満170未満高リスク120未満患の再発・悪化を防ぐための治療)生活習慣の是正とともに、薬物治療を考慮する冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)の既往100未満(70未満)²150未満130未満(100未満)²150未満40以上¹:一次予防の管理区分が低リスク〜高リスクのどれに該当するかは、年齢や性、喫煙の有無、脂質異常症以外の病気といった危険因子を考慮して決められます。ただし、糖尿病、慢性腎臓病、脳梗塞などがあれば、他の危険因子の有無にかかわらず、高リスクです。
²:遺伝性の高コレステロール血症や心筋梗塞・不安定狭心症の急性期、または糖尿病に加えて慢性腎臓病やメタボリックシンドロームなどがあるときに考慮する目標値です。
※目標値の設定については、主治医にご相談ください。
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」より抜粋
脂質異常症は、全く症状がありません。そのため脂質異常症を治療せずにいる人が多く、心臓病や脳血管疾患の症状が現れて、初めて事態の重大性に気づくことも少なくありません。
食べすぎや飲みすぎなどのよくない食習慣や、運動不足、それらによる肥満、精神的ストレスなどによって脂質異常症になります。遺伝的なことが関係している場合もあります。若いうちは男性に多く、女性では更年期を境に血清脂質(LDLコレステロールや中性脂肪)が高くなることが多いものです。なお、食習慣や運動不足などとは関係なく、内分泌の病気などがあって血清脂質が高くなる「二次性脂質異常症」もあります。その場合は、もとの病気を治療すると、脂質異常症は改善します。
皆様、もうメタボリックシンドロームはご存じですね。血清脂質や血糖、血圧が少しずつ悪いために、動脈硬化が進行しやすくなっている状態です。メタボの診断基準には悪玉のLDLコレステロールが入っていませんが、これは「LDLコレステロールが動脈硬化の重要な指標ではない」ことを意味するのではありません。これまで、脂質異常症や糖尿病などの診断基準に該当しないために治療対象になっていなかった人の中から、動脈硬化の危険が高い人を見逃さないために設けられたのが、メタボの診断基準です。動脈硬化の最大の危険因子が高LDLコレステロール血症であることは、昔も今も変わりありません。
脂質異常症がなぜ怖いのでしょうか。脂質異常症では、血液中にあふれている脂肪分が血管の壁に溜まっていきます。そして、血管壁に塊かたまり(プラークといいます)ができます。プラークにより血管内壁が滑なめらかさを失い、血液が固まりやすくなったり、血管壁内に炎症が起きたりします。そういった異常が相互に影響しあって、その部分の動脈硬化はますます進行します。血管壁のプラークは、あるとき突然破裂することがあり、その瞬間、血管内は完全に塞がれてしまいます。医学的に「血管イベント」と呼ばれる現象の一つです。
血管イベントが心臓で発生すると、心筋梗塞や不安定狭心症の発作となります。脳で発生すると脳梗塞、一過性脳虚血発作です。日本人の死因のトップはがんですが、二位・四位は心疾患と脳血管疾患で、いずれも動脈硬化が深く関係しています。これらの病気では、いのちにかかわる発作がおきたり、半身不随の障害が残ることが少なくありません。動脈硬化は脂質異常症以外にも、糖尿病や高血圧、喫煙、加齢、ストレスなどで促進されます。これらを動脈硬化の危険因子といいます。脂質異常症は、とくに強力な危険因子です。
自覚症状がないのになぜ脂質異常症を治療するのか。それは動脈硬化の進行を遅らせ血管イベントの発生・再発を防ぐためです。脂質異常症の人にとっては血清脂質を下げることが、心臓や脳の発作でいのちを落としたり、自立生活を失わないための、一番効果的な予防手段というわけです。
動脈硬化そのものを治すことは難しいことです。しかし、危険因子を減らせばその進行を遅らせることができます。危険因子のうち、脂質異常症は治療によってよくすることが可能です。どのくらいの治療が必要か(治療目標の設定)は、医師が患者様ごとに危険因子の数や程度を判断して決めます。
同じ脂質異常症でもつぎのような人は、その影響が強く現れるので、より積極的な治療が必要です。
現在は血清脂質を下げるよい薬がありますが、薬による治療だけでは病気のもとの部分は改善されません。動脈硬化の防止には、脂質異常症の原因となっている生活習慣の改善が必要です。
生活習慣の乱れが端的にわかる指標は体重やウエストサイズです。体重やウエストが気になる人は、まず減量を心掛けましょう。そのために食事を改善したり運動をすれば、脂質異常症の治療にも必ずよい影響が現れます。
脂肪分をとりすぎない
脂肪分をとると、血清脂質は高くなります。肉料理や油を使った料理はできるだけ減らしましょう。調理油はなるべくオリーブ油を使います。
動物性脂肪:肉や乳製品の脂肪、おもに常温で固形のもの(青魚の油は別)。悪玉コレステロールを増やし動脈硬化を促したり、血液を固まりやすくします。
植物性脂肪:ごま油など、おもに常温で液体のもの。悪玉コレステロールを減らし、血液を固まりにくくしますが、とりすぎると善玉コレステロールも減ります。
運動を継続して行うと、善玉のHDLコレステロールが高くなります。また、体重管理の面からも、その効果は見逃せません。運動の基本は歩くことです。1日少なくとも6,000〜8,000歩を目安にスタートして、徐々に増やすようにしましょう。
薬生活面を改善しても目標までコントロールできない場合は、血清脂質を下げる薬が処方されます。現在頻用される薬は、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)というタイプで、肝臓のコレステロール合成を抑えるなどの作用があり、悪玉のLDLコレステロールを減らします。善玉のHDLコレステロールを増やす作用もあります。このほか、コレステロールの吸収を抑えてLDLコレステロールを下げる薬もあります。また、脂肪細胞での脂肪の分解や肝臓での中性脂肪合成を抑えるフィブラート系薬剤(おもに中性脂肪を下げます)などもあり、脂質異常症のタイプや管理目標などに応じて処方されます。これらの薬でしっかり治療しつづけると、血管壁プラークの安定性が高まり、血管イベントがおきにくくなる(発作の発生率が減る)効果も現れます。なお、頻度は大変まれですが、脂質異常症の薬の副作用として、重度の筋肉障害や肝機能障害などが報告されていますので、定期的に診察を受けるようにしましょう。
動脈硬化を防ぐため、脂質異常症以外の危険因子の除去も大切です。糖尿病や高血圧があれば、適切な治療をつづけましょう。もちろん、禁煙は必須です。
「血清脂質が低いと脳出血が起きやすい」という統計が話題になったことがあります。しかし、それは脂質異常症の薬の副作用というより、栄養摂取が十分でないため血清脂質までが低くなっている人が、結果として脳出血をおこしやすいことを表したものと考えられます。また、「日本人は心臓病が少ないから脂質異常症は治療しないでいいと聞いた」といって薬を飲みたがらない人もいますが、これまでの中高年層は若いころは血清脂質が低い状態で推移していたため心臓病が少ないのであって、若いうちから脂質異常症に近い状態にある現代の中高年世代には、同じことがいえるとは限らないと考えるべきでしょう。
治療を続けて、健康的で自立した生活をいつまでも!
脂質異常症は、一時的な治療で完治する病気ではありません。食事療法や運動療法、薬物療法をつづけ、血清脂質を低く維持する毎日の生活習慣が大切です。
動脈硬化による血管イベントの発生・再発予防は、血清脂質をどれだけ低く、どれだけ長くコントロールできるかにかかっています。逆にいうと、適切な治療をつづければ、いつまでも快適に自立した生活ができるということです。脂質異常症といわれたら、「早く見つかってよかった」と前向きに考え、気長に治療をつづけましょう。
糖尿病は、インスリンが十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまう病気です。
インスリンは膵臓から出るホルモンであり、血糖を一定の範囲におさめる働きを担っています。血糖の濃度(血糖値)が何年間も高いままで放置されると、血管が傷つき、将来的に心臓病や、失明、腎不全、足の切断といった、より重い病気(糖尿病の慢性合併症)につながります。
また、著しく高い血糖は、それだけで昏睡(こんすい)などをおこすことがあります(糖尿病の急性合併症)。
私たちが食事をすると、栄養素の一部は糖となって腸から吸収されます。寝ている間など、食事をしない時間が続くときには、主に肝臓により糖が作られています。
糖はからだにとって大切であり、食事をしたときも、食べていないときも、常に血液中を流れています。糖は血液の流れに乗って、からだのあらゆる臓器や組織へめぐります。血液中をただよい、筋肉などの細胞までたどり着いた糖は、同じく血液中に流れていたインスリンの助けを借りて細胞に取り込まれます。
取り込まれた糖は、私たちのからだが活動するためのエネルギーの源となります。インスリンは細胞のドアを開ける鍵のような役割を果たしています。インスリンの働きによって、細胞の前まで到着した糖はすみやかに細胞の中に入り、糖は血液中にあふれることなく、血液中の糖の濃度は一定の範囲におさまっています。
糖尿病になるとインスリンが十分に働かず、血糖をうまく細胞に取り込めなくなるため、血液中に糖があふれてしまいます。これには、2つの原因があります
糖尿病ではこの2つが影響して、血糖値が高くなってしまいます。
症状がなく糖尿病になっていることに気がついていない方も多くいます。糖尿病では、かなり血糖値が高くなければ症状が現れません。
高血糖における症状は、
さらに血糖値が高くなると、意識障害に至ることもあります。
症状がまったくないまま健診などで糖尿病が判明する方もいれば、急に高血糖の症状が現れて糖尿病が判明する方もいます。また、眼や腎臓の合併症の症状が現れて、初めて糖尿病と診断される方もいます。
糖尿病は、その成りたちによっていくつかの種類に分類されますが、大きく分けると、「1型糖尿病」、「2 型糖尿病」、「その他の特定の機序、疾患によるもの」、そして「妊娠糖尿病」があります。
1型糖尿病では、膵臓からインスリンがほとんど出なくなる(インスリン分泌低下)ことにより血糖値が高くなります。生きていくために、注射でインスリンを補う治療が必須となります。この状態を、インスリン依存状態といいます。
2型糖尿病は、インスリンが出にくくなったり(インスリン分泌低下)、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することによって血糖値が高くなります。2型糖尿病となる原因は、遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満などの環境的な影響があるといわれています。2型糖尿病患者の方に生活習慣の問題があるわけではありませんが、血糖値を望ましい範囲にコントロールするためには、食事や運動習慣の見直しがとても重要です。飲み薬や注射なども必要に応じて利用します。
糖尿病以外の病気や、治療薬の影響で血糖値が上昇し、糖尿病を発症することがあります。
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めてわかった、まだ糖尿病には至っていない血糖の上昇をいいます。糖は赤ちゃんの栄養となるので、多すぎても少なすぎても成長に影響を及ぼすことがあります。そのため、お腹の赤ちゃんに十分な栄養を与えながら、細やかな血糖管理をすることが大切です。妊娠中は絶えず赤ちゃんに栄養を与えているため、お腹が空いているときの血糖値は、妊娠していないときと比べて低くなります。一方で、胎盤からでるホルモンの影響でインスリンが効きにくくなり、食後の血糖値は上がりやすくなります。多くの場合、高い血糖値は出産のあとに戻りますが、妊娠糖尿病を経験した方は将来糖尿病になりやすいといわれています。
メタボリックシンドロームとは、ごく簡単に言うと、次の二つの特徴がある状態です。
脂質異常症や高血圧や糖尿病という病気は、一人の人に、重なって起きることが少なくありません。そして、そのような状態では、それぞれの病気が相互に悪さを及ぼしあって、合併症が、とくに動脈硬化が早く進行してしまうのです。
複数の病気が重なっているのだから、さぞかしいろんな症状が現れるのかと思いきやそうではなく、たいていは自覚症状がありません。それどころか、血圧や血清脂質(中性脂肪やコレステロール)や血糖の検査値も、それほど悪くないことが多いのです。このため、検査値の異常があっても‘軽症’だと判断してきちんと治療せず、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞の発作が起き、動脈硬化が進行していた事実に、初めて気づかされるということがあるのです。
脂質異常症や高血圧、糖尿病などを併発すると、動脈硬化が極めて早く進行することは、古くから知られていました。ただ、なぜ複数の病気が併発するのか、その理由がわかっていなかったのです。しかし近年の研究によって、おおもとの原因は「内臓脂肪の過剰な蓄積」だということが、明らかになりました。運の悪い人が偶然、複数の病気を発病してしまうのではなく、原因は一つだったということです。
メタボリックシンドロームで問題になる動脈硬化とは、血管の壁が硬く変化して血管の内部が狭くなり、血液が流れにくくなる病気です。動脈硬化で血液の流れが途絶えると、そこから先へは酸素や栄養が行かずに細胞が死んでしまいます。これが心臓で起こるのが心筋梗塞、脳で起こるのが脳梗塞です。日本人の死亡原因で、1位はがんですが、2位の心臓病と4位の脳血管疾患のほとんどは、動脈硬化による病気と考えられます。日本人の4人に1人以上は、動脈硬化で亡くなるということです。
また、肥満、高血圧、高血糖、高脂血症という動脈硬化の危険因子が重複した場合に、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)がどのくらい起きやすくなるかを調べた研究があります。それによると、冠動脈疾患を発症した人の過去10年間の検査値をさかのぼってみたとき、上記の危険因子を複数もっていた人が多いことがわかりました。とくに、危険因子が三つ以上あった場合、危険因子ゼロの人に比べて、約36倍もの頻度で冠動脈疾患が発症していました。
ここまでお話ししたように、メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の溜まり過ぎが原因で複数の病気が併発し、動脈硬化が急速に進行しやすくなっている状態です。ですから、メタボリックシンドロームを診断するには、まず、内臓脂肪が過剰に溜まっていることを確認します。それには、お臍の位置でウエストサイズを測ります。ウエストサイズが男性は85cm以上、女性は90cm以上のとき、内臓脂肪が過剰に溜まっている状態と判断します。
「脂肪が過剰に溜まっている」と聞くと、太っている人のことだと思いがちですが、実際にウエストを測るとわかるように、太っているように見えない人でも、この基準値を上回っていることがよくあります。いわゆる“隠れ肥満”です。メタボリックシンドロームは、このような隠れ肥満の人に少なくありません。
内臓脂肪の溜まり過ぎが確認できたら、次に、それによってからだに影響が現れているかどうかを確認します。血清脂質、血圧、血糖の検査値のうち、二つ以上に異常があれば、メタボリックシンドロームです。
血清脂質、血圧、血糖が高いときには、それぞれ、脂質異常症、高血圧、糖尿病という病気を診断されます。しかし、それらの病気の診断基準を満たさなくても、メタボリックシンドロームに当てはまることがあります。ここがポイントです。つまり、糖尿病などの病気ではなく、その“予備群”であっても、それが複数あるなら、動脈硬化の進行予防という点からみると、すでに手を打たなければいけない状態だということです。
腹腔内脂肪蓄積 ウェスト周囲径 |
男性≧85cm 女性≧90cm(内臓脂肪面積 ≧100cm²に相当) |
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上記に加え以下のうち2項目以上
診断基準項目 | 基準値 |
---|---|
脂質異常症 | 高トリグリセライド血症 ≧150mg/dL かつ/または 低HDLコレステロール血症 <40mg/dL (男女共通) |
血圧 | 収縮期血圧 ≧130mmHg かつ/または 拡張期血圧 ≧85mmHg |
血糖 | 空腹時高血糖 ≧110mg/dL |
過剰に溜まった内臓脂肪は、なぜそんなに悪いのでしょうか。少し難しくなりますが、内臓脂肪がからだの中で、なにをしているのかを解説します。
食事をして体内に入ったエネルギーが、からだを動かして消費するエネルギーより多いと、余分なエネルギーが脂肪として蓄えられます。その脂肪は、溜まる場所によって、内臓脂肪と皮下脂肪の二つに分けられます。
内臓脂肪は、おなかの中の内臓周囲につく脂肪です。ですから、それが過剰に溜まった状態「内臓脂肪型肥満」では、おなかの出っ張りが目立ちます。このような太り方は、男性に多い「上半身肥満」と一致します(その体型からリンゴ型肥満とも呼ばれます)。
一方、皮下脂肪は全身の皮下に溜まりますが、とくにお尻や足につく脂肪が目立ちます。女性に多い「下半身肥満」の体型の人は、「皮下脂肪型肥満」ということです(洋ナシ型肥満とも呼ばれます)。
この二つのタイプの肥満のうち、さまざまな生活習慣病と関係が深いのは、内臓脂肪型肥満のほうです。
さきほど、「余分なエネルギーが脂肪として蓄えられる」と言いました。しかしこれは、脂肪の役割の説明として十分ではありません。実は、脂肪は単にエネルギーを貯蓄するだけでなく、数々のサイトカインを分泌しているのです。
サイトカインとはなにかと言うと、細胞で作られるさまざまな生理活性物質のことです。例えば、肝炎の治療にインターフェロンという薬が使われますが、これは、もともと肝炎ウイルスに感染した細胞が分泌するサイトカインです。脂肪細胞が分泌するサイトカインは何種類かみつかっていて、「アディポサイトカイン」と総称されています(アディポは脂肪という意味です)。
内臓脂肪が増えると、このアディポサイトカインの分泌に異常が起きます。インスリン(おもに血糖値を下げる働きをするホルモン)の働きを邪魔して血糖や血圧を高くしたり、血液を固りやすくして心筋梗塞や脳梗塞の発作を招く、“悪玉”のアディポサイトカインが増えます。その一方で、動脈硬化の進行を抑えたり、インスリンの働きを高める“善玉”のアディポサイトカインは少なくなります。
さらに、内臓脂肪からは、脂肪の一種の「遊離脂肪酸」が放出されるので、血清脂質が高くなります。
メタボリックシンドロームに当てはまるなら、動脈硬化の進行を抑えるための対処・治療が必要です。その第一の方法は、複数の検査値異常のおおもとの原因である、過剰に溜まった内臓脂肪を減らすことです。「皮下脂肪は定期貯金、内臓脂肪は普通預金」と言われます。皮下脂肪は溜まるのも使うのも時間がかかる一方、内臓脂肪は溜まりやすく消費されやすいという意味です。つまり、幸いにも、内臓脂肪型肥満は解消しやすい肥満だということです。
さまざまな病気の原因を比較的簡単に解消できるとなれば、なにもせずにいる手はありません。エネルギーを使って、せっせと内臓脂肪を減らしましょう。まずは、減量にこだわらずにウエストを細くすることが最初の目標です。ウエストが細くなれば、内臓脂肪が減ったということで、多くの検査値が同時に改善してきます。
からだを使うチャンスを見つけましょう。今の社会は、自分でからだを動かす努力をしないと、運動量がどんどん減ってしまう世の中です。自動車が普及し、駅や街中の階段にはエスカレーターが設置され、自分の足をあまり使わずに移動できます。仕事の内容も昔と異なり、椅子に座ってパソコンを操作する時間が長くなっていると思います。エスカレーターに乗らず階段を上る、車で5分の距離は歩いて行くといったように、毎日の生活の中で、できるだけからだを使う機会を見つけてください。
食事のとり方も見直しましょう。もちろん、運動と同時に食事の習慣の見直しも必要です。腹八分目、寝る前には食べない、油ものは少なくして野菜を多くとる、よく噛んでゆっくり食べる、お酒を飲み過ぎない。あたり前のようなこういった‘基本’を、しっかり続けることが大事です。
検査値が十分に改善しなければ、薬で治療することもあります。運動や食事の習慣を改めて内臓脂肪が減っても、十分に改善しない検査値が残ることもあります。その場合は、薬を使って治療します。
なお、メタボリックシンドロームと診断される前すでに、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの薬を処方されていた場合は、その薬物治療を続けながら内臓脂肪を減らしていきます。また、メタボリックシンドロームの診断基準には、LDLコレステロールや食後血糖が入っていませんが、脂質異常症や糖尿病の患者様の場合、それらもしっかりコントロールしてください。
もう一つのアドバイスは、「検査を欠かさない」ことです。メタボリックシンドロームはもとより、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの病気や動脈硬化さえも、自覚症状がほとんど現れません。
一度改善した検査値が、再び悪くなることもあります。動脈硬化を抑え心筋梗塞や脳梗塞の発作を防ぐには、そのような変化を早期発見することです。定期的に検査を忘れずに受けるようにしましょう。もちろん、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの治療を受けているのであれば、しっかり通院を続けてください。
気管支ぜん息の発作は、夜から早朝にかけてよく起こります。診察室で医師に診てもらっているときは、あまり起こりません。
ですから、患者様自身の判断による正しい対処がとても大切です。間違った知識や思い込みによる自分勝手な治療は、病気を悪化させたり、ぜん息死を招きかねません。年々減少傾向にあるとはいえ、国内で毎年1,000人以上もの患者様が、ぜん息発作で亡くなっているのです。
ぜん息患者の気管支は、症状が無い時も常に炎症が続いています。その炎症で気管支の壁が厚くなっているとともに、常に痰も詰まっていて、空気が通るスペースが狭くなっています。それがぜん息発作時には、気管支が収縮し、空気の通る部分はさらに狭まり、息が苦しくなります。
喉から肺の奥へ伸びている空気の通路のことを気道といいます。この気道が収縮して狭くなり、呼吸が苦しくなったり、発作が起きる病気が気管支ぜん息です。
発作時の息苦しさ、とくに息を吐くときの苦しさと、ゼーゼーという呼吸音(ぜん鳴)が特徴です。ひどい発作のときは、苦しくて横になれなかったり、呼吸困難から呼吸停止に至り亡くなることもあります。発作時以外には、ほとんど症状はありません。
アレルギー反応で起きるほか、呼吸器の感染症にかかったとき、季節の変わりめや天候の変化、疲労、食べすぎ、気温や気圧の変化などが発作の誘因になります。不安など、心理的なことが影響することもあります。1日のうちでは、夜から早朝にかけてが発作が起きやすい時間帯です。なお、運動や特定の薬(鎮痛薬やかぜ薬、降圧薬など)の服用によって発作が起きる人もいます。ぜん息発作時気管支が収縮し、空気の通る部分はさらに狭まり、息が苦しくなります。
発病の原因で、多いのはアレルギーです。しかし、アレルギー以外の原因もいろいろあり、一つには絞りきれません。ぜん息は、それらいくつもの要素が重なりあって発病すると考えられています。
ぜん息は以前、気道の内壁が健康な人よりも敏感になっていて、わずかな刺激にも反応して気道収縮を起こす病気だと考えられていました。このため、発作が起きたときに気道収縮を抑えることが、治療のおもな目的でした。
しかし、気管支鏡などの検査技術の進歩により、ぜん息の人の気道には、つねに慢性の炎症が起きていることがわかりました。この炎症が気道を敏感にし気道を狭めていて、ちょっとした環境の変化や刺激が加わったときに発作が起きると、現在では理解されています。
このことから、近年のぜん息治療の主目的は、気道の慢性的な炎症をどう抑えるか、に移ってきています。
ぜん息発作は、気管支が拡張すれば治まります。しかし、気道の炎症は治っていません。それどころか、発作のたびに気道壁は傷つきます。気道の細胞はその傷を修復しようと試みますが、修復の途中で次の発作が起きると、中途半端で不完全な修復が繰り返されます。結果的に炎症はさらに進行して、気道が狭くなります。つまり、発作を起こすこと自体が、ぜん息を悪化させてしまうということです。
では、気道の炎症を抑えるにはどうすればよいのでしょう。また、どんなに正しい治療をしていても、発作を完璧に防ぐことが難しいこともあります。発作には、どのように対処すればよいのでしょう。ここで、ぜん息治療のポイントを四つにまとめて紹介します。
まずは処方された薬を指示されたとおりにきちんと使うことです。発作が起きたときにだけ薬で対応していたのでは、病気の進行は抑えられません。発作が起きないときでも、医師に薬の減量・休薬を指示されるまでは、きちんと使用してください。
発作時には気管支拡張薬(おもに短時間作用型β2刺激薬)を吸入します。β2刺激薬は速効性があり大変有効ですが、症状がひどくなってからでは、効果は弱くなります。発作のなるべく早い時期に正しく吸入してください。がまんは禁物です。軽い発作だと思っていたのが、急にひどくなって呼吸困難に至ることも、決してまれではありません。ぜん息歴が長い人ほど発作を甘くみる傾向がありますので、とくに注意してください。
次のようなことがあてはまるときは、経口ステロイド薬を服用し、すぐに救急病院を受診するか、救急車を呼んでください。もうすぐ朝だから少し待って病院に行こうなどとは考えないことです。また、ふだんから経口ステロイド薬を服用している人や、過去に意識を失うほどの大発作を経験したことのある人は、さらに早めの対応を心掛けてください。
発作にアレルギーが関係している場合は、環境を見直して、アレルゲンをできるだけ避けることです。それにより、発作の誘発や、アレルギーによる気道の炎症を抑えることができます。アレルゲンは、ダニ、花粉などの、呼吸により気管支に入り込むもの以外に、牛乳や卵そばなどの食べ物の場合もあります。
そのほか、次のようなちょっとした工夫で発作の誘因を少なくすることもできます。
気道の状態を患者様自身で確かめる方法として、ピークフロー(最大呼こき気流量)を測る方法があります。これは、息をいっぱいに吸い込み、思い切り吐き出すときの空気のスピードのことです。ピークフローが低下していれば、気道が収縮しているということで自覚症状がなくても、発作を起こしやすくなっていると判断できます。市販のピークフローメーターで、ごく簡単に測定できます。起床後に1回、夕方から就寝までの間に1回の計2回測定し、自己管理の指標として役立ててください。
◆ピークフロー値による自己管理のめやす
子どものぜん息は、大人の場合と異なる点がいくつかあります。まず、発作の原因がアレルギー性のものが多い点です。なにがアレルゲンか、どんなときに発作が起きやすいのか比較的はっきりわかりますから、それを取り除く努力をできるだけ徹底してください。
ぜん息は患者様自身の自己管理が大切な病気ですが、小児ぜん息の場合は、まず保護者が病気を理解することがポイントになります。お子さまに発作が起きた場合にそれがどの程度の発作で、どう対処すべきなのか、早めに判断できるようになってください。
また、この病気は発作がないときは、全く健康的に生活できる病気だという理解も大切です。例えば運動なども、症状が無くても毎日、長期管理薬を使う事で安全に行えます。なるべくほかの子どもと分け隔てなく、ふつうの学校生活を送れるようになることが治療の目的なのです。
せきやたん、あるいは息切れは、よくある症状です。それだけに“変だな?”と思いつつも、そのままにしてしまいがちなもの。でも、それが長引くなら注意が必要です。気管支や肺、あるいは心臓に、なにか異常があるかもしれません。
ここでは、長引くせき・たん、息切れの原因となる「慢性気管支炎」と「肺気腫」をとりあげます。この二つは医学的に「慢性閉塞性肺疾患」と呼ばれています。気管支が閉塞(狭まる)ような病状が、長く続く病気という意味です。適切に治療しないでいると、呼吸機能が少しずつ悪化し、心臓病なども起こり、日常生活から徐々に快適さが奪われていきます。慢性気管支炎と肺気腫は、併発することもよくあります。
慢性気管支炎や肺気腫と言われたら、それがどんな病気なのか、正しく理解することが大切です。
病気の話を始める前に、気管支と肺の仕組みについて説明しましょう。
吸い込んだ空気は、気道(気管・気管支)を通って肺に届きます。気管支は枝分かれを繰り返し、肺のすみずみへ広がり、その末端は肺胞と呼ばれる小さな袋です。
気管支の壁には、粘液を分泌する細胞と細かい線せん毛をもった細胞があり、表面はつねに粘液で覆われています。吸い込んだ空気の中の異物(ゴミや細菌など)は、肺の奥に届く前にその粘液に付着し、線毛の動きに乗って喉のどのほうへ戻されます。それが排出されるのがたんです。たんが多すぎたり、ねばりけが強いときは、それを強制的に排出するためにせきが出ます。
このように気管支は、空気を肺に届けるとともに、外気の異物から肺を守る役割も果たしているのです。
枝分かれした気管支の終着点が肺胞です。肺胞は球状の袋で、表面は細い血管で覆われています。その表面を介し、血管内の血液と肺胞内の空気の間で、二酸化炭素と酸素を交換する「ガス交換」が行われています。一つ一つの肺胞は非常に小さなものですが、左右の肺合計で数億個もあり、ガス交換に必要な広い表面積(100平方メートル以上と計算されています)を確保しています。
せきとたんが特徴です。専門的には「せきとたんが、おもに冬季に3か月以上ほぼ毎日続く状態が2年以上連続していて、それがほかの病気によるものではない」ときに、慢性気管支炎と診断されます。
気道の壁に炎症が起き、粘液が過剰に分泌されています。過剰な粘液(たん)はせきの原因となるほか、線毛運動を低下させて、たんの排出をさらに悪くし、病気を長引かせます。進行すると、気道の壁が厚く変化して、気道内部が狭くなるので、息苦しさも加わります。
喫煙による気道壁への刺激が、最大の原因と考えられています。実際、患者様のほとんどが、たばこを吸う人です。喫煙以外では、排気ガスなどの大気汚染、アレルギー体質なども関係があります。
気道をできるだけきれいにすることが治療の基本です。具体的には、まず禁煙です。そして、去たん薬や気管支拡張薬などで、気管支の状態を整えます。また、たんが黄色くなり、発熱した場合に抗菌薬を服用することもあります。たんが排出されると、せきは自然に少なくなります。
運動時の息切れが特徴で、病気の進行とともに少しずつひどくなります。例えば、階段を上るときにしか起こらなかった息切れが、歩いただけ、からだを動かしただけでも起こるようになる、といった具合です。せきやたんを伴うこともよくあります。
本来はとても小さな袋のはずの肺胞が、壁が壊れて隣の肺胞と合わさり、一つの大きな袋になっています。大きくなった肺胞は、周りの正常な肺胞を壊してさらに大きくなります。そして、大きな肺胞ほど肺胞壁の弾力性が乏しく、内部に空気が溜まったままの状態になります。そのため、吸い込んだ息を吐き出しにくく、息苦しさを感じます。また、肺胞の表面積の合計が小さくなるので、ガス交換の効率が低下します。
慢性気管支炎と同じく、喫煙の影響が最も大きいと考えられてます。喫煙係数が600以上の人の5人に1人が肺気腫になります。60歳以上の男性に多い病気です。ただし、日本人ではまれですが、肺胞壁の破壊を防ぐα1-アンチトリプシンが欠けている遺伝家系では、たばこを吸わない若い人でも発病することがあります。
肺は心臓と密接な関係にある臓器です。このため肺に異常があると、その影響は心臓にも及び、心臓はオーバーワークを強いられます。そして、心不全などの合併症が起きてきます。
一度壁が壊れた肺胞を、元に戻すことはできません。このため治療は、病気の進行を抑えて残された肺機能を維持すること、心臓合併症を防ぐことが目的となります。病気そのものは治せませんが、正しい治療により、自覚症状を和らげ、病気の進行を遅くすることができます。息苦しさの改善には、口すぼめ呼吸や腹式呼、呼吸筋トレーニングが役立ちます。薬物治療では、吸入の抗コリン薬が、気管支を広げて息苦しさを改善するのに有効です。必要があれば在宅酸を始めます。また、病状によっては、手術で治療することもあります。禁煙は必須です。
X線(レントゲン)検査やCTスキャンなどで、胸の内部を調べます。気管支の異常はあまり画像に現れませんが、肺気腫では、肺胞が拡大した部分を確認できます。また、肺全体が膨脹し横隔膜を押し下げたり、心臓を圧迫している様子がわかります。これは、肺胞に空気が溜まった状態が、長く続いていた結果を示しています。
肺活量や1秒率から、肺がどのくらい機能しているかを調べる検査です。1秒率の低下が目立つ(息を吐き出しにくい)のが、慢性閉塞性肺疾患の特徴です。
動脈血中の酸素や二酸化炭素の量を調べます。呼吸機能が低下してくると、酸素は少なく、二酸化炭素は多くなります。採血せずに指先に光を当てて酸素の量を測る、より簡便な検査方法もあります。
慢性気管支炎や肺気腫は長引く病気ですから、日々の暮らしの中に、上手に治療を取り込んでいく工夫が必要です。ここでは、患者様が自分でする治療(セルフケア)のポイントを整理してみます。
一番注意が必要なのは、症状が急激に悪化する急性増悪期です。多くの場合、冬場のかぜやインフルエンザなどの感染症が原因です。呼吸困難や血液中の酸素量の低下などが起きて、入院が必要になることもあります。
予防法として、インフルエンザシーズン前の予防接種、こまめにうがいする、室内の加湿・保温などがあげられます。暖房器具の使用はとくに乾燥しますので、洗面器に水を張ったり加湿器を用いてください。そして、もし自覚症状がひどくなったり、発熱や頭痛が起きたときは、早めに診察を受けてください。
骨は石のように硬い物質に見えますが、実はほかの組織と同じような生きた細胞の集まりです。
古い骨が溶かされることを骨吸収、新しい骨が作られることを骨形成といい、これらの一連の過程を骨リモデリングと言います。
なにかの原因で骨リモデリングのバランスが崩れると、骨形成を上回るスピードで骨吸収が進み、骨の内部はすき間だらけになってしまいます。骨がこのような状態になる病気を、骨粗鬆症といいます。
国内の骨粗鬆症の患者様は高齢化とともに急増していて、その数は1,000万人を上回ると推測されています。
骨粗鬆症それ自体では、自覚症状はありませんが、症状がなくても骨は確実に弱くなっていて、骨折しやすい状態です。
骨粗鬆症によって起こりやすい骨折には、脊椎の圧迫骨折(背骨を構成している脊椎が押し潰されて骨折した状態)、大腿骨近位部骨折(脚の付け根)や手首の骨折、腕の付け根の骨折があります。
なかでも大腿骨近位部の骨折が一番問題です。ここを骨折すると、その瞬間に歩けなくなってしまいます。
治療には手術が必要で、一旦歩けるようになってもその後に反対側の大腿骨近位部を骨折したり、そのまま寝たきりになることもあります。
大腿骨近位部を骨折する人は1年間で約10万人ですが、そのうち2割近くの人が1年以内に亡くなられるという統計もありますし、また寝たきりは防げたとしても、車椅子が必要になることも少なくありません。
脊椎の圧迫骨折では、腰や背中が曲がったり身長が縮んだりします。これらは老化現象のひとつで大したことではないと考えがちですが、決してそうではありません。内臓にも影響し、呼吸機能の低下、逆流性食道炎(食後に横になると胃の内容物が逆流し食道に炎症を起こす)、消化管運動の低下による便秘、腸閉塞などを起こし、快適な生活が損われます。
骨の強さは「骨量」という尺度で測ります。測定にはX線や超音波を用います。測定部位は、脊椎(背骨)や手の指、踵などいろいろあって、それぞれ長所短所がありますが、いずれも安全で痛みもありません。骨粗鬆症が疑われる場合は、DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)という方法で、腰椎または大腿骨近位部の骨量を測り診断を確定します。
骨塩量の平均値※1に対する割合 | 診断 |
---|---|
80パーセント以上 | 正常 |
70〜80パーセント | 骨量減少※2 |
70パーセント未満 | 骨粗鬆症 |
※1 若年成人(20〜44歳)の平均。
※2 この段階でも脊椎の圧迫骨折や手足の骨折があれば、骨粗鬆症と診断されます。
血液や尿から骨リモデリングの状態を間接的に知ることも可能です。骨量測定値は半年から1年経過しないと変化しませんが、骨代謝マーカーの検査値は、短期間で変化するので、薬の効果を確かめるのに役立ちます。
「骨粗鬆症」の根本は、骨形成と骨吸収のバランスが崩れ、骨吸収の側に傾くことにあります。すべての人は加齢による骨形成能力の低下に伴い、中年期以降は骨量が減少する傾向にあります。
また、加齢以外にも、以下のようなことが骨粗鬆症発症の原因となります。
適度な運動は骨形成を活発にします。とはいってもあまり無理をすると、逆に骨折の危険が高くなってしまいます。安全に継続することが一番大切ですから、その意味では“歩くこと”が最適です。汗ばむくらいの早さで、毎日最低20分歩くのがよいでしょう。
なお、カルシウムの吸収に必要なビタミンDは、皮膚に紫外線が当たることで、体内のデヒドロコレステロールという物質が変化して作られます。ですから外出の機会が少ない人は、なるべく屋外で運動したほうがよいでしょう。しかし、日焼けするほどの日光は皮膚の負担となるので、よくありません。
近年の骨粗鬆症治療の進歩はめざましく、骨吸収阻害薬・骨形成促進薬ともに選択肢が豊富になってきました。そこで現在、入手使用できる骨粗鬆症治療薬剤についてまとめてみます。
骨吸収抑制薬に分類される薬剤には①ビスフォスフォネート製剤 ②選択的エストロゲン受容体モジュレーター( SERM) ③抗RANKL抗体(デノスマブ)があげられます。
ビスフォスフォネート製剤は骨基質と親和性が強いため骨基質に蓄積し、それを破骨細胞が貪食するとビスフォスフォネートが破骨細胞内でコレステロール代謝を阻害して破骨細胞の分化を抑制します。ビスフォスフォネート経口剤は吸収が悪く、小腸から吸収されて血中に入るのは投与量の1%にすぎません。服用方法は朝食前に水で内服し、少なくとも、30分間は臥位をとらないようにします。骨吸収抑制薬による重大な副作用はまれですが、顎骨壊死と非定型大腿骨骨折があります。非定型大腿骨骨折の多くは大腿骨転子下の横骨折で軽度の外傷で発生します。予防にはビスフォスフォネート製剤を5年内服したら休薬期間(drug holiday)を設けます。
更年期以降に内因性エストロゲンが低下することが骨粗鬆症の原因の一つでありますが、SERは骨に対してはエストロゲンと同様の骨吸収抑制作用を有する一方で子宮内膜や乳腺では抗エストロゲン作用を示し、乳がん発症を抑制する可能性も指摘されています。ビスフォスフォネート製剤やデノスマブに比べて骨密度増加効果は少なく、椎体骨折リスクは減らしますが、非椎体骨や大腿骨近位部の骨折抑制効果は示されていません。SERMの骨折抑制効果は骨密度上昇との相関が弱く、主に骨質の改善によるものと考えられています。注意すべき副作用として下肢深部静脈血栓症のリスクが使用していない人に比べて3倍になることがあげられます。
デノスマブは骨細胞由来の破骨細胞活性化因子であるRANKLを標的とした完全ヒト型モノクローナル抗体です。RANKLを阻害することで破骨細胞の形成を抑制します。デノスマブは半減期が1か月前後と長く、半年に1回の皮下投与で十分な骨吸収抑制効果が得られます。デノスマブによる骨密度増加はビスフォスフォネート製剤による増加より大きくその効果は10年にわたり続きます。しかしデノスマブの最大の問題は、薬剤中止後蓄積されていた破骨細胞が一気に分化するため急速な骨吸収亢進がおこることです。このため薬剤中止後12か月で椎体骨折が多発することが報告されています。できるかぎり投与を続けるべきですが、やむを得ず中止する時にはビスフォスフォネート製剤に変更すると骨量減少をある程度抑え骨折発生を抑えられるという報告があります。しかし効果は一定していません。
骨形成促進が主作用で、日本で認可されている骨粗鬆症治療薬はテリパラチド(フォルテオ皮下注®、テリボン皮下注®)、ロモソズマブ(イベニティ皮下注®)、アバロパラチド(オスタバロ皮下注®)の3種類です。
テリパラチドは遺伝子組み換えヒト副甲状腺ホルモン(PTH)で、アバロパラチドはPTH関連ペプチドの誘導体でともにPTH様作用を示します。PTH投与でPTHレセプター活性化が持続的に起こると、一次性副甲状腺機能亢進症の様に骨吸収が優勢になり骨量が減少しますが、持続的でなく毎日またはそれ以下の頻度では骨量が特に海綿骨で増加します。両者ともに副作用は吐気・めまい・頭痛・動悸が主です。投与期間は、テリパラチドで24か月、アバロパラチドで18か月という使用制限があります。
スクレロスチンとは骨表面で骨細胞から放出されるタンパクで骨芽細胞による骨形成を抑制し、破骨細胞による骨吸収を増加させて骨量増加を阻害します。ロモソズマブはこのスクレロスチンに結合して骨形成を促進し、骨吸収を抑制します。ロモソズマブは骨形成促進作用と骨吸収抑制作用を同時に発揮します。骨折予防効果は椎体骨折・非椎体骨折および大腿骨近位部骨折すべてを強力に抑制し、骨吸収抑制剤よりも予防効果があります。投与期間は1年間で、投与終了後はデノスマブやゾレドロン酸などの骨吸収抑制剤の投与継続が必要です。ロモソズマブは骨吸収抑制効果も有するためテリパラチドには見られない顎骨壊死や非定型大腿骨骨折という薬剤の関与を疑われる副作用もあるほか、心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞)の副作用が報告され、心筋梗塞や脳梗塞などの既往がある場合には注意が必要です。
従来は1日のカルシウム500mg以上の摂取が推奨されて来ましたが、65歳以上の女性で骨量とカルシウム摂取量の間には相関はなく、カルシウムのサプリメントの摂取は成人で骨折を予防せず胃腸障害・腎結石・心血管疾患を増加させるのでカルシウムの摂取は食事からだけにすべきとの報告があります。
ビタミンDには天然型と活性型がありますが、天然型ビタミンDは食事として摂取されるものと皮膚で紫外線をあびて合成されるものとがあります。天然型ビタミンDは肝臓、腎臓で代謝されて活性型ビタミンDとなります。現在骨粗鬆症治療薬として処方されているのは活性型です。天然型ビタミンDの高用量は骨量減少を加速し、さらに転倒・骨折を増やすことがわかっています。活性型ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を高め、骨量を増やすと言われています。また骨以外にも作用し、がん・炎症・免疫・心血管・皮膚・筋肉への作用が報告されています。骨格筋にはビタミンD受容体が分布しており、Ⅱ型筋線維へ作用することにより体幹の揺れが減少し、転倒を抑制することが明らかになっています。
昆虫が土からはい出し、草木は芽を吹き、動物や人間も活動的になる季節──春。家から飛び出し、暖かい日の光をからだいっぱいに浴びたくなります。しかし最近、そんな春の訪れを素直に喜べない人が増えているようです。
そう、スギ花粉症。多くのスギ花粉症の患者様にとって、春は悪戦苦闘のシーズンです。花粉症は、ある年突然起こり、60歳以前に自然に治ることはほとんどありません。毎年新たな患者様が加わるので、花粉症人口は年々増え続け、今や日本人の10〜20パーセントは花粉症ともいわれています。
この花粉症は正式にはアレルギー性鼻炎といいます。ところが、医療機関を受診して治療を受けている人はそれほど多くありません。「どうせアレルギー性鼻炎は治らないから」とあきらめているのでしょうか。治療を受ければ、かなり症状を軽くできるのですが…。
アレルギー性鼻炎は、「花粉などを抗原とする鼻粘膜と結膜のアレルギー性の病気」です。アレルギーとは、からだの外から体内に侵入する細菌やウイルスなどを無害化する「免疫反応」が、過剰に作用してしまうこと。花粉をも排除しようとする、過剰な生体防御反応がアレルギーです。アレルギー反応を引き起こす物質を、「抗原(アレルゲン)」といいます。
アレルギー性鼻炎の症状は、アレルゲンである花粉などが体内に入り込みやすい部分、つまり、鼻や目(結膜)に現れます。具体的には、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目や鼻のかゆみ、目の充血、涙目などで、このほかからだのだるさ、ほてりなどもよく起こります。ひどいときは喉のどが痛んだり、熱が出ることもあります。
花粉症に似た症状
気温の変化などの刺激を受けて、自律神経のコントロールに変化をきたして起こる鼻炎で、アレルギーによるものではありません。比較的くしゃみが少ないのと、中高年女性に多い傾向があります。
毎年、アレルギー性鼻炎の患者数は増えています。従来は青壮年期の発症が多かったのに、近年では小学生のときに発症する子どもも増え、患者数の増加に拍車がかかっています。
なぜアレルギー性鼻炎になるのか、その確かな理由はわかっていません。戦後各地に植林されたスギが成長し、花粉が大量に飛散するようになったことも一つの原因のようですが、それ以外にも、自動車の排気ガスなどによる大気汚染、乳製品や卵・たんぱく質の過剰摂取によりアレルギーが起きやすくなっている可能性、都市型社会生活によるストレス増大の影響などが考えられています。
同じように花粉などにさらされ、同じように生活していても、アレルギー性鼻炎になる人とならない人がいます。その違いの一つは、遺伝による体質的なことがあるといわれています。生まれつきアレルギー反応を起こしやすい体質の人は、アレルギー性鼻炎にもなりやすいと考えられます。
また、長期間にわたって少しずつアレルゲンの影響を受け続けたり、汚れた空気の環境で長年生活している人は、鼻の粘膜の感受性が高まって、アレルギー性鼻炎になりやすくなります。
日本人のアレルギー性鼻炎の患者様の多くは、スギ花粉症です。スギ花粉の飛散シーズンは2月上旬からゴールデンウイークにかけてで、毎年この時期には花粉情報がマスコミに流れ、春の風物詩のようになっています。しかし、アレルギー性鼻炎を引き起こすのはスギばかりではなく、ヒノキ(飛散時期は春から初夏)、カモガヤなどのイネ科の植物(おもに夏)、ブタクサ・ヨモギ(秋)などが原因の場合もあります。ダニの場合、一人を通じて症状が現れることがあります。
症状を引き起こす原因がどの植物の花粉かは、血液検査などで確かめられます。なかには複数の植物の花粉がアレルゲンとなっていて、花粉が飛ばない冬場以外はずっと症状に悩まされる患者様もいます。
アレルギー性鼻炎の症状の重症度は、鼻や目の粘膜に付着した花粉の量、からだの中にできている抗体の量、鼻の粘膜の過敏性に左右されます。粘膜がより過敏になっていれば、花粉の量が少なくても症状が現れます。
鼻粘膜の過敏性は、アレルギー性鼻炎の自覚症状が現れる前、花粉がごく少量飛散している時期から進行し始めます。あるレベルまで粘膜過敏性が進み自覚症状の出たときが、その人の花粉症シーズンの幕開けになります。
「花粉症は病院に行ったってよくならない」「花粉症の薬は眠くなるから飲みたくない」。きちんと治療すればアレルギー性鼻炎の症状はかなり軽快するのに、このような誤った思い込みから、治すことをあきらめている人が少なくありません。
アレルギー性鼻炎の辛い症状を軽減するポイントを紹介します。今年こそは不快な症状、薬の副作用による眠気に邪魔されない、明るい花粉シーズンを過ごしましょう。
症状が現れる前に治療を始めることで、鼻粘膜の過敏性が抑えられ、本格的な花粉シーズンを迎えても、症状が現れにくくなります。反対にいったん症状が現れてしまうと、鼻粘膜過敏性はすでに進行しているため、治療効果が現れるのに時間がかかります。
スギ花粉は、多くの地域では2月の上旬から飛散し始めるので、2月になったら症状がなくても、一度受診しましょう。
アレルギー性鼻炎治療に対する患者様の満足度を調べた調査では、治療に満足していると答えたのは4人に1人で、残りは不満足という結果が出ています。しかし、その理由を詳しく調べると、医師が処方した薬をきちんと服用していない人がかなりいることがわかりました。症状がひどいときだけ薬を飲み、がまんできそうな日は薬を飲まない人が多いのです。
それでは治療の効果がごく限られたものになるのは当然です。なぜなら、前に解説したとおり、アレルギー性鼻炎の症状を左右する要素の一つは鼻粘膜の過敏性で、いったん過敏性が亢進すると、簡単には改善しません。毎日きちんと薬を服用していれば、鼻粘膜の過敏性が抑えられ、花粉が大量に飛散する日の症状も軽くなります。薬は必ず医師の指示どおりに服用しましょう。
なお、患者様が薬を飲まないのは、副作用で眠気を催すことが多いためと考えられています。しかし最近は、眠気の副作用が少ない薬もあるので、自己判断で薬を飲まないのではなく、まずは医師に相談してください。また最近の研究では、患者様自身が自覚しない眠気(作業効率の低下や反射速度の遅延など)という副作用もあることもわかってきました。もし、試験勉強中だったり、車を運転するのであれば、あらかじめ医師に伝えておくとよいでしょう。
今はスギ花粉とダニに限られるのですが、舌下免疫療法といって、根本的にアレルギー症状を起こしにくくする治療方法もあります。
からだへの花粉の侵入をできるだけ減らす、次のような対策をたてましょう。
寝不足の日はアレルギー性鼻炎の症状がひどくなります。シーズン中は睡眠をたっぷりとりましょう。ただし、症状がひどすぎて眠れないという人もいます。そんなときは医師に相談しながら、あなたにあったよりよい治療法を探しましょう。
また、精神的ストレスが症状に影響することもあるので、なるべくストレス解消を心掛けてください。
アレルギー性鼻炎は発症すると、残念ながら60歳以前に自然に治ることはほとんどありません。それだけに、個々の患者様の症状、生活スタイルにあった、最もよい治療法を早めに見つけることが大切です。医療機関を受診した最初の年は、あなたにあった治療法を探すための試行期間と考えてください。一度あなたのアレルギー性鼻炎の治療法が確立してしまえば、翌年からはあまり悩まされずにすむのですから、医師とよく相談して、一番よい治療法を探しましょう。